旅の目的は主にアートです。

旅は日帰りも含みます。近くの美術館から遠くの美術館まで。観たいものは観たい!気ままな鑑賞日記です。

生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真 東京ステーションギャラリー 2024.4

メインビジュアルは「(馬と少女)」山根曲馬団というサーカスを撮影したシリーズの1枚

広告を見て、その写真にとても心惹かれて鑑賞。

安井仲治、知らなかったので、まっさらなままで観てみました。

20年ぶりの回顧展。大正から昭和戦前に活躍した写真家で、大阪生まれで18歳で浪華写真倶楽部(なにわしゃしんくらぶ)に入会し、活躍したそう。

初期の頃の作品のキャプションに多くあるのは「ブロムオイル」という技法。油絵具を使った技法で、そのせいか、写真だけど絵のような味わいがあるというか。

労働者をモチーフにした「或る船員の像」では、モデルが被写体にされることを不快に思わないか、表現者としての葛藤もあり、なんか、まっとうな人、という印象。

風景写真、特に都市のを観ているとだんだん落ち着かないというかセンチメンタルな気分になって、なんでだろう?って考えたら「ああ、知らない街だからだ」と気がついた。同時代の写真家の展覧会は例えば桑原甲子雄とか観たことがあるけれど、大体、舞台は東京なので、「ああ、ここは今でいう◯◯あたり」っていう何となくの見覚えがある風景であることが多いのだけど、おそらく大阪を中心に撮られている風景は、私にはまるで見知らぬ外国のように思えるからではないかと。

そのかわり「蝶」「(少女と犬)」などの写真は、不変的な美しさを感じた。

実験的な「半静物」(その場にあるモチーフに少し手を加え、組み替えて撮る写真、安井仲治のオリジナルな手法)やシュルレアリスムに影響を受けた写真も、社会的な時事の写真も、独特の芸術性が感じられる個性的な写真で、当時、抜きん出て写真家の牽引的な存在だったというのも納得です。

病気のため38歳で早世。晩年の作品「流氓(るぼう)ユダヤ」シリーズ。ナチスから逃れて神戸に着いたユダヤ人たちを撮った作品、こちらもただのポートレートではない構成の作品があって、魅力的だったのだけど、どんな思いでレンズを向けたのかなあ、とも思います。最晩年の「上賀茂にて」シリーズ3作品が展示の最後。作品数が多くボリュームがあって、じっくり観ていたら、結構な時間が経っていました。

年表を見ながら、戦争を生き抜いたとして41歳、その後の日本、もしかして世界、ともっともっと素晴らしい作品が撮れただろうになあ、と悔しく思いながら、会場を後にしました。

撮影スポット「(顔) (Faces)」

撮影スポット「(道化) (Clown)」

ポスター 左:「作品」この写真がいちばん好きでした

撮影パネルの前で自撮りを試みている人がいて、うまくいってなさそうだったので撮ってあげようと声かけてみたら外国の方だった。旅先で美術館、かな、いいな。