旅の目的は主にアートです。

旅は日帰りも含みます。近くの美術館から遠くの美術館まで。観たいものは観たい!気ままな鑑賞日記です。

かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと Bunkamuraザ・ミュージアム 2022.8

東急のショーウィンドウ

 

本好きな子どもだったので、小学校に入学して初めて授業で図書室に行ったときを覚えている。好きな本を読みましょう、で、手に取ったのが、かこさとしの『どろぼうがっこう』。表紙がとてもかっこよかったのだ。今でもイカす!と思うし、それを気に入った当時6歳の自分の感性も我ながらイカす!と思っている。

でもやっぱり、だるまちゃんとからすのパンやさんがメジャーよね〜。

2大スター

たぶん、『どろぼうがっこう』のあとに自分も読んでると思うのだけど。やっぱり、私の中では『どろぼうがっこう』以上のインパクトはなかったような記憶です。

今回の展覧会で知ったのは、かこさんが東大卒のエリートサラリーマン、研究者と絵本作家の二足の草鞋を履いていたこと。航空士になりたかったけど目が悪くて断念、で工学の方に進んだこと、東大に入学した年に敗戦、飛行機乗りになりたかった自分に少し後ろめたさを持ち、さらに軍国主義から民主主義に手のひら返した大人たちに嫌気がさして、大学卒業後は会社員をしながらセツルメント、というボランティア活動で子どものころから好きだった絵を描くことを活かして、子どもたちに紙芝居を披露していた(そのときの写真も展示されていた)こと…などなど。

確か美輪明宏さんの著書で読んだ記憶があるのだけれど、「理系と体育会系が結びつけば戦争が起こる、理系と美術系が結びつけば芸術が生まれる」みたいな自説を披露していて、(うろ覚え、本も手元にないので、ちょっと表現が違うかもです、あしからず)なるほどな、と読んだ時思ったのだけど、まさにかこさんのような人が体現しているな、と思いました。

 

印象に残った作品とエピソードなど。

『ミロのヴィーナス(かこによる)』『モナリザダ・ヴィンチ

これはいわゆる騙し絵。一見、線の模様だけど角度を変えると見えてくる…という類の。かこさんはダ・ヴィンチが好きだったそう。なるほど、共通点ありますね。

『セツルメントでの紙芝居の数々』

クレヨンや水彩、墨絵など、いろいろな手法で描かれていたところに、若さが感じられて。

『ゆきのひ』絵本

故郷の福井を思って作られた絵本、雪の表現に心がほんわりした。

『からすのパンやさん』絵本

宮沢賢治の『烏百態』という詩が好きだったそう。知らなかった作品なので興味が出ました。

『ならの大仏さま』絵本

この本を作るにあたり、奈良の大仏を5年研究したそう。子ども相手の絵本だからこその真摯に向き合う姿勢に圧倒されます。

他にも、科学・学習絵本はたくさんあって、研究者の本領発揮という感じでどれも素晴らしかったです。

万里の長城』絵本

清明上河図が好きでその影響を受けていること。

『うつくしい絵』

唯一自ら出版社へ持ち込んだ企画とのこと。

これらも本物を子どもたちに届けたいという思いを感じます。

『地球 その中をさぐろう』絵本

下絵の展示。地球を地表から中心部まで描いた本。最後のページの言葉が「さあ、それでは あなたもわたしも みんな がんばりましょう。さようなら。」で締められていて、私たち人間が地球の一部であることをやさしい言葉で自覚させられる気がする。

 

私の大好きな『どろぼうがっこう』の原画は一枚だけでしたがそれでも満足。今まで読んだことのない絵本も読んでみたくなりました。

 

フォトスポット おいしそうなパンがいっぱい

Bunkamuraの1階入口には

表紙絵の世界

通りがかるとモニタが反応します。

絶版の『Chock Full o' Fun てづくり おもしろ おもちゃ』

本には触れなくて残念。この『Chock Full o' Fun てづくり おもしろ おもちゃ』はとてもかわいくて欲しくなりました。

Bunkamuraザ・ミュージアムで9/4まで

 

 

 

生誕100年朝倉摂展 練馬区立美術館 2022.7

 

『歓び』 きれいな、ピンク色の豊富さがとても好き

朝倉摂といえば舞台美術家の印象が強かったのですが、日本画家、絵本画家の顔もあったことを知り、表現の仕方を変えていくアーティストがとても好きなので、俄然興味が出ました。

日本画から出発した表現は、キュビズムの追求、そして戦後の炭鉱や漁村の労働者、60年安保闘争など、モチーフが移り変わり、また同時に、顔料とカンヴァスの組み合わせなど、道具や素材にも自分のオリジナリティを常に追求し続けていたことを知れる構成になっていました。

メインビジュアルにもなってる『群像』 キュビズムの初期の作品

 

印象に残ったのは『日本1958』の男性のアングルや『おんな』の表現。

スケッチブックの展示もありました、絵のうまさがよくわかる。初期の頃の作品は女性が多い印象でしたが、スケッチには男性もちらほら見えました。

舞台美術の展示は、舞台模型、舞台写真、エベレーション、といった装置の展示からパンフレットやポスターまで、見応えがありました。私は今ほど演劇を観ていなかった時代のものなので、観たことある舞台はなかったな、残念だな、と思いながらじっくり観ました。特に『蜘蛛女のキス』は素敵だった。

絵本原画は、日本画の時代の作品がもっとかわいらしくなったような、色彩がきれいで引き込まれて観ていました。絵本は好きだったけれど、私はあまり子供の頃に読んだ記憶がないな〜こちらも残念だな、と思いながら。『てんぐのかくれみの』の、かくれみのの表現には思わず息を呑みました。コラージュを使った透明の表現、素晴らしかったです。

もっと早く会いたかったアーティスト。でも今回、いろいろ知ることができて、よかった。





仙厓ワールド また来て笑って!仙厓さんのZenZen禅画 永青文庫 2022.6&7

 

夏の散歩道

永青文庫までの道は散歩にぴったり、最後の階段がちょっときついけど。今は何やってるのかな?って調べたら仙厓さんの禅画で、一度まとまってみたかったし、前期後期でほぼ入れ替えというので、はりきって両方堪能してきました。(気づいたの前期終わる直前のギリギリの駆け込みでしたが)

前期公開の『龍虎図』の虎がポスターに

仙厓の禅画を中心に、白隠、誠拙といった禅僧の書画作品で構成。

形の取り方とか墨での表現とか、みんな絵が上手い人だったんだな〜というのが滲み出ていましたが、でも目的は禅の教えを説いたり、広めたりするためで。特に、恵まれない人への歩み寄りとかも表現してて。

禅画の構成の説明の展示もあって、勉強になりました。

人物、動物もキュートだけど、朝顔、花見、朧月、などなど季節を感じる作品が好きだな、と感じました。

仙厓以外で、特に惹かれたのが白隠の書。きりっとした線がモダンな感じもして、とても魅力的でした。

あなたが選ぶ禅画キャラBest10って投票があって、私は好きなので、鍾馗に投票してみた!展覧会終了後、結果発表なので、結果が楽しみです。

急な階段を上がったあとに

その先、わくわくする道

人気投票!結果が出てました。

鍾馗は4位!狗子より上って結構健闘ではないでしょうか?

https://www.eiseibunko.com/images_exhibition/2022/zenga_best10.pdf

香道の世界 ~志野流香道五〇〇年の継承~ 増上寺宝物殿 2022.6

梅雨明けのすごく暑い日に。

日美のアートシーンで、香道の展示があるとのことで行ってみました。宝物殿どこから入るのかわからなくて増上寺の周りをうろうろしちゃった。普通に中に入ればわかりやすかったです。

香道と聞いて思い出すのは『丘の家のミッキー』。主人公の恋人が香道の家元の息子という設定で、香りは聞く、とか組香とか、豆知識なことを知った覚えがあります。

増上寺宝物殿、入ってびっくりしたのが、

篠田桃紅の作品が!こんなところで!うれしい。

撮影可だったのでいっぱい撮っちゃった。

オペラシティの篠田桃紅展でも、建築物での作品はたくさん紹介されていていつか見れるといいなあと思っていたので思いがけない出合いがうれしかったです。

肝心の香道ですが(こちらは撮影不可)、今で言うテキストや心得などの書物、掛軸などの展示。特に『香道軌範』という書物に香炉の説明(こういう香炉にはこういう風に香をのせる、みたいな説明に見えた)が挿絵付きで書いてあって。なんかとぼけた鳥のイラストが描いてあるなあと思ったら鴨の香炉の説明でした。なんとも可愛かった。

次に香道のお道具の展示、そして香の展示。ガラスケースに入っているので香りは分かりませんが『六十一種名香一覧』あと、有名な『蘭奢待』。和紙を組み合わせた素敵な展示でした。聞香体験会、講演会などもあったようなので、参加してみたかったな。

ポスター、入口など、アートワークが素晴らしかったです。

 

イスラエル博物館所蔵 ピカソ/ひらめきの原点 パナソニック汐留美術館 2022.5

版画を中心に、というコピーに惹かれて。

青の時代、バラ色の時代からキュビズムシュルレアリスムまで、幅広い年代の作品群を版画を中心に油彩画や墨画、素描まで、満遍なくピカソの魅力を味わえる展覧会でした。

ピカソの作風の変遷とともに、女性遍歴も重なっていくので、キャプションに女性の名前が出てくるたびに、え〜っと、さっきの作品は誰だったっけ?という感じに出品リストを振り返ったりしてました。うん、まあ、もてるからしょうがないのね…まあ、確かに格好いいし、あの強い力の目に見つめられたら引き込まれちゃいそうな気もしないでもない、なんて思いながらも、ちょっと複雑な気持ちになったりもしました。

版画に関しては、エッチング、ドライポイント、リトグラフ、等々それぞれの技法の説明パネルがあってわかりやすくてよかったです。シュガーリフト、という技法があって、初めて聞きました、砂糖を使う技法。私はエッチングのシンプルな線の作品が好きです。

一番、好きだったのは〈ヴォラール連作〉のキュビズムな『ほおづえをついて座る裸婦』、どことなく勝気な表情が面白かった『頭像に見入る彫刻家とモデル』『試作する若い彫刻家』。

〈347シリーズ〉は86歳の時の版画連作で、『横たわる裸婦と髭のある頭部』は88歳の時のドローイング。晩年の作品もなんか、表現の可能性を追い続けているような自由な豊潤さも感じて、最後まで精力的だったのが伝わりました。天才なんだな、やっぱり。

 

以下は撮影可コーナーにて。

窓辺の女

シルヴェット・ダヴィッドの肖像

首飾りをつけた女

篠田桃紅展 東京オペラシティアートギャラリー 2022.5

ー篠田桃紅は、70年を越える活動を通して、前衛書から墨による独自の抽象表現の領域を拓き、孤高の位置をまもりながら探究しつづけました。(展覧会公式webより)

昨年、107歳で亡くなった篠田桃紅没後初の回顧展。

篠田桃紅を知ったのは、ちょうど、100歳の時に上梓した本を書道の師匠に借りたのがきっかけだったので、8年前か。その後は、テレビ出演や著作など欠かさずチェックしていました。

作品はもちろん、その考え方や生き方も好きです。自分が現代書の作品を作りたいと思ったとき、今からできるかな?と逡巡してたのですが、とりあえずやってみよう、今が一番若いんだし、年に1つでも作れば10年やれば10作品できる、とかよくわからない自信を持てたのも、この方の影響があるかも。

この展覧会を知ったのは、4月入ってすぐで、ああ、オペラシティアートギャラリーの天井の高い空間にぴったり、楽しみだわ、と思ったのだけど、ちょうど自分が毎年出品している展覧会に出す作品を作っていた最中だったので、今、観に行ったら、影響を受けすぎるんじゃないか、とか自分はダメダメだなあと劣等感を刺激されちゃうんじゃないか、とか思って、5月GWに作品を仕上げてからやっと行ってきました。

行ってみて、それは杞憂だったと反省しました。素晴らしい作品に感動し、創作意欲を刺激されるしかなかった。

作品は年代を問わず並べられていて、同じ題材で、いくつも描かれている作品(『火』1954年、1981年、1988年、1991年など)が並べられていると、ひとつのテーマをずっと掘り下げていった作家の意欲が感じられました。

同じく題材が同じでも、並べられていた『音』2作品(ほぼ同じ年代に制作)は、片方にはメロディが感じられ、もう片方にはリズムや躍動感を感じて。同じ題材でも表現方法の違いを追求したのか、おもしろさがありました。

目に見えないものを墨で表現したいという気持ちが伝わってきて、これが創作意欲を刺激するなと(勝手に感じただけですが)やる気が出てきました。

版画作品もあって、実物を観たのは初めてだったかも。墨の表現を版画の偶然性に身を任せているのが潔くて好きだな、と思いました。書の表現も偶然性に任せることもあるから、似ているのかもしれない。

東京オペラシティアートギャラリーで6/22まで。書でもあり絵でもありもしかしたら彫刻ともいえるかも、な自由な表現、堪能できます。

 

昨年は横浜のそごう美術館でも展覧会があって、亡くなられてすぐの春でした。

こちらの展示は、ご本人の「作品タイトルで先入観を与えたくない」という意向で、作品にはキャプションがなく、まっさらな気持ちで作品の一つ一つと向き合うのが楽しかったです。(展示目録はあるので後からチェックしていろいろ考えるのも良きでした)

 

オペラシティアートギャラリーコレクション展にあった李禹煥。8月からの国立新美術館李禹煥展も楽しみ。

 

生誕110年 香月泰男展 練馬区立美術館 2022.3

f:id:chiegon:20220324235824j:plain

葉山の神奈川県立近代美術館で開催していた時に、日曜美術館のアートシーンで取り上げられていた『シベリア・シリーズ』に興味を持ちました。巡回に練馬区立美術館があったので、そちらで観ようと思っていて、また閉幕ギリギリでの鑑賞となってしまった。前期後期入れ替えがあったので『シベリア・シリーズ』全作品鑑賞とはならなかったけど、それでも、満足な鑑賞体験となりました。

ロビーのバナー、黒と白で印象的

『シベリア・シリーズ』は32点からなる香月泰男の代表作。1943年に召集、日本降伏後シベリアに送られ、1947年に復員するまでを余儀なくされた兵役と抑留体験を描いています。

思っていたのと違ったのは、『シベリア・シリーズ』をまとめて展示しているのではなく、初期から晩年まで制作順の展示構成になっていたこと。多くの作品の一部でありながら、こつこつと描かれ続けた『シベリア・シリーズ』がところどころに現れる。1973年の遺作も『〈渚〉ナホトカ』。戦争、シベリアでの過酷な体験がいつまでも画家の心の中に重く残っていたかということがよくわかります。

画家は、絵に説明はいらないものだけれど、伝えたいこともある、と『シベリア・シリーズ』のみ自筆の解説文が添えられていました。極寒の地、過酷な強制労働、死んでいく仲間たちと自分もいつそうなるかという死への恐怖…より鮮明に伝わってきます。

故郷と繋がっている夜空にきらめく星と、地上の有刺鉄線、希望と絶望をも対比させた『星〈有刺鉄線〉夏』が中でも印象に残った作品でした。

『絵具箱』はナホトカの船待収容所で絵具箱を枕に寝ている自画像。会場の最後にその、絵の具箱の展示がありました。母に買ってもらった絵具箱で、蓋の裏に作品の構想が書いてあって、なんでこんな人が戦争に行かなければならなかったのか、と平和の大切さを感じさせられます。

f:id:chiegon:20220324235843j:plain

f:id:chiegon:20220324235932j:plain

画家の言葉

 

『シベリア・シリーズ』以外も素敵な作品はたくさん。70年代に入っての、初のヨーロッパ訪問でのフランスの風景画もよかった。

 

練馬区立美術館では終了、この後は足利市立美術館に2022年4月5日~5月29日で巡回です。